以前読んだ「プライスレス 必ず得する行動経済学の法則」(ウィリアム・パウンドストーン)についての書評を書いてみます。
たった一杯のコーヒーに290万ドル(約3億円)
アメリカのニューメキシコ州アルバカーキの陪審が認めた損害賠償の額である。
マクドナルドのドライブスルーで熱々のコーヒーを購入し、クリームと砂糖を入れるために車を路肩に止めて、カップを膝の間にはさんで蓋をあけたところ中身がこぼれてヤケドをしたのである。
この自業自得ともいえる被害に290万ドルである。
さすがに裁判官もこの金額は常軌を逸脱しているとして、48万ドルにまで減らされたという。
その後、被害者はマクドナルドと和解をしたらしいが、その和解金は60万ドルを超えなかった程度らしい。
皆さんはどう感じただろうか。
さすがに290万ドルは高いので、60万ドルなら仕方がないとお思いだろうか。
しかし結果的には、コーヒーを自身でこぼして受けた被害に6000万円近くのお金を手にしたのである。
実はこの弁護士、裁判の最初から行動決定理論を巧みにつかい、賠償請求や交渉を行っていたのである。
国連にアフリカ諸国はどれくらいいる?
もうひとつ例をあげるために、皆さんに3つ質問をしたいと思う。
1)10+15-5+30+15= いくつになるか?
2)国連にアフリカ諸国が占める割合は1)の答えより多いか少ないか?
3)国連にアフリカ諸国が占める割合は何%か?(大体の推測でかまわない)
これはアメリカ人心理学者のトヴェルスキーとカーネマンが行った実験である。
1)は計算ではなく、実際には100番まである数字のうち、10か65しか出ないルーレットを使用した。
このうちルーレットで10が出た被験者たちの3)の回答は平均25%であった。
しかし、65が出た被験者たちの平均は45%と2倍近くの違いとなった。
両者の違いはルーレットの数の違いだけである。
3)の答えが正確に分かっている人なら別だが、たいていはあてずっぽうで答えなければならない。
その場合には、全く関連性がないとわかっていながらも、直前にあった数値の影響を受けているという結果である。
未知の数量を推定するときには、このルーレットの数の様な初期値(アンカー)が基準となるということを示している。
価格設定
現在のビジネスの世界でも、これらの心理的要因を考慮して価格設定が行われており、消費者はその価格に満足をして購入しているのである。
皆さんは、80%の確率で4万円もらえる話と、100%の確率で3万円もらえる話があったらどちらを選ぶだろうか。
私なら確実に3万円もらえる方を選ぶだろう。
従来の経済学では現実世界の出来事を説明するには無理がある。
例えば、従来の経済学の前提として、人は合理的な判断に基づいて意思決定をするということがある。
この場合、従来の経済学における期待値で考えると、80%の確率で4万円ということは期待値は3万2千円である。
一方、100%の確率で3万円ということは、期待値も3万円である。
期待値からいえば3万2千円の方が有利であり、合理的な判断をするのであれば、人は80%の確率で4万円もらえる話を選択するはずである。
しかし、私を含め多くの方は、そのようには選択しなかったのではないだろうか。
従来の経済学では説明がつかないのである。それを説明しようとしているのが行動経済学である。
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中小企業診断士 山口亨
UTAGE経営研究所